水曜の保健室Ⅱ 「いろんな人がいて 自分がいる」

2008年02月07日

昨年の5月に本を出版してから今日まで、郵便ポストに、

毎日2,3通ずつ手紙が届いている。

 


本や冊子を読んだ人、テレビを見た人、新聞を読んだ人、

いのちの授業を受けた子どもたち。

北は北海道から、南は鹿児島まで全国から次々届く。

 

うれしいなあ!!

 


ありがとう!! と、心はウキウキなんだけれど、

どんどん届くと、

なかなか返事が追いつかない。

申し訳ないなあと思いつつ、

今日も、かわいい封筒を開けてみた。

 

 

  山ちゃんへ
  久しぶり~。ゆうこだよ。アンビリバボー見たよ。

  めっちゃ感動して泣きそうだった。

  私たちのクラスも、あんなに出ていてビックリしたよ~。

  なんか、言葉に言い表せないくらい、すごかった。

  もう、みんなし~んとして、テレビにしせんをむけてたって感じ。

  ふだんはうるさいお母さんもしずかにして。

  めっちゃしんけんに見てたよ。 画面から、元気をもらったよ。

  だから、私も山ちゃんにパワーを送るよ。


 (中略)


  あ、そうそう、山ちゃんが6年生に書いてくれた一枚の色紙、

  誰がもらうか、今、決めているんだよ。

  (3月に卒業するから)みんなほしがっているんだ。

  私もほしいよ~。山ちゃんパワー最強! アハハッ。 

  じゃ、またネ。がんばれ山C。

 

 

 

   山ちゃんへ

  山ちゃーん。大丈夫?って元気ですか?

  こうがんざいちりょうがんばってる?

  きついだろうなあと思ったし、

  山ちゃんどうしてるのかなあと思ったので、

  個人的に手紙を書くことにしました。

  あ、わたし、しおりです。おぼえていますか?

  あ、そうだ! アンビリバボー見たよ。

  山ちゃん有名人やん。すごかねえ。さすが山ちゃん。

 


(中略)


  あのなあ、山ちゃん、M先生が、山ちゃんがOKっていう返事だったら、

  ていったんだケド春休みに、山ちゃんのお見舞いに、

  7人だけ先生が連れていってくれるっていうんだあ。

  でも、今クラスでは7人ってだれだろうって。

  絶対行きたいっていうので、盛り上がっています。

  マダ×2さきだけどねえ…。

  うちは、いつも山ちゃんをおうえんしてるよ。

  だけんがんばりぃ。がんばれ山ちゃん。

  お返事は書けたらでよかよ。

  じゃあまた、手紙かくよぉ。じゃあね。

 

 

ミッキーマウスや、クマのプーさんの便せんに、

ひらがないっぱいの文字。

おしゃべりするように、方言で書いてくれる子どもたちからの手紙は、

心があったかくなる。ああ、元気だったら、飛んでいくんだけどなあ。

抗ガン剤の副作用や、キリキリする腕の痛みに耐えている私には、

「水曜日の保健室」を続けるだけで精一杯ちゃね。

 

 

 

そうそう、「水曜日の保健室」には、相変わらずさくらちゃんが、来ている。

 

 

午後3時から5時まで、2時間を一緒にすごすだけなのに、

楽しみに毎週やってくる。

不登校のプロのようなさくらちゃんは、

学校でエネルギーを使いきることはないので、

時間も体力もあり余っている。

 


 

「今日も、まず、お茶碗あろうてなー」と言うと、

「また~!?」と言いながら、

たまったお茶碗を、ニコニコお片づけ。

 

 

 

家事をひととおり手伝った後、一緒にピアノを弾いたり、

お茶を飲みながら雑談してオシマイ。ってなシーンを、

なぜか地元のテレビ局が継続取材している。

 

さくらちゃんも、さくらちゃんの父母も、

 

「撮影?? べつに、いいよ」ってなかんじで、OK。

 

度胸がある。

 

 

 

 

先週も、いつものようにやってきて、

いつものようにお茶碗を洗って、

ピアノの練習をはじめたんだけど…

なんか、表情がカタイ。

 

 

途中で、ピアノの指が止まってしまった。

 

 


「なんか、あったん??」

 

と尋ねると、

 

 

「うん」とうつむき、涙ぽろぽろ。

 

 

「そっか。じゃ、コタツにみかんで、お話しよか」と移動し、

 

友達や先生と、うまくいかないあれこれを、ひととおり聞いた。

 

 

 

誰がどーした、こーしたという話を聞いても、

保健室には、解決方法なんてナイ。

でも、空気を入れ換えるくらいは、できるんだ。

 

 

 


たとえば…。

 


「ほら、カメラさん、音声さん、あんたたち、

こげな話撮っても使えんで。仕事やめよ。

それよか、さくらちゃんにアドバイスしてよ」と、

 

二人の若者にバトンタッチした。

 

 

すると、彼らは、ちょっと照れながら、

こんな話をしてくれた。

 

 

 

「さくらちゃん、オレなあ、いろいろあって高校中退したんで、

なかなか就職もないでなあ。この仕事もアルバイトなんじゃ。

生活、大変でなあ。この前、チャリ盗まれたんじゃけど、

金ねーき買えん。近所の人に頼んで、

会社には途中まで車に乗せてもらいよるちゃ。」

 


「そうなんじゃ、こいつ、本当に貧乏でなあ。

この前、『ゴキブリが、部屋に出た!眠れん』ち、

電話あって、オレんちに泊まりにきたんじゃ」

 

 


「だって、オレ、ゴキブリ、マジ怖い」

 

 


「情けねーじゃろ? 

でもなあ、ゴキブリ怖い時に、

泊まりに行ける友達が一人おったら、

人は、生きていけるんじゃ。

さくらちゃん、

友達は、いっぱいおらんでいいんで。」

 

 

 


「そうそう、オレもそう思うで。

みんなと仲良くしたいとか、

思ったりせんほうがいいで。

いろんな人がおって、あたりまえなんちゃ」 

 

 


さくらちゃんの顔が、だんだん緩んできた。

 

 

「ところでなあ、さくらちゃんに一個だけ、

聞きたいことがあるんじゃ。頼むけん教えて!」

 

 

 

さくらちゃんは、「頼まれても、困る」と、目をそらす。

 

 


「オレなあ、また、彼女にふられてしもうたんじゃ」

 

 


さくらちゃん、ここで爆笑。

 

 


「笑わんで! あのなあ、もし…

無人島にオレとこいつだけだったら、

どっちと暮らす?」

 

 

「教えて!!」

 

 


二人の若者は、いまどきのふつうの男の子。

こんなことを、マジメに尋ねるアホな人たち。

 

 

「そんなこと、言えません!」とさくらちゃん。

 

 


「言うてちゃ~。本当に、知りたい。 

オレって、こいつよりモテないの?」

 


「そんな失礼なこと、言えません!」


と言いながら、さくらちゃんは、ゲラゲラ笑っていた。

 

 

 

3人の会話の間、私はヒマなので

パソコンに向かって原稿を書いていた。

 

 

そこで、ちょっと、わからないことがあったので、

尋ねてみた。

 

 


「あのさー、カメラさん、音声さん、ちょっと教えて。

三島由紀夫の能文学に、班女ってあるらしいんだけれど…

なんて読むの? ハンニョ?ハンニャ? 能って見たことある?」

 


すると、二人は、こう言った。

 


「はい。大分の能楽堂に、

取材で行ったことがあるから、

能は、見たことあります。

ところで、三島由紀夫って、

誰? 

演歌歌手ですか?」

 

 


「あのね…」と言いかけて、あたしは、

さくらちゃんの方を見て言った。

「ここまで、落ちたらヤバイかも。」

 

 

すると、二人は言った。

 

 


「さくらちゃん、こげなバカなオレたちでも、

なんとか頑張ってやっていきよんのよ。

さくらちゃんは、これからや。ホント、

お互い努力しようよなあ」

 

 

 

5時になった。

 

さくらちゃんは、ひまわりのような笑顔で

 

 

「ありがとう! また、来週きま~す!」と言って帰った。

 

 


 
山ちゃん保健室には、ヘンな大人が集まる。

 

だから、子どもも、ちょっと楽になるのかも!?   

 

ときどき、フラリとよってくるT君と、「山ちゃん保健室」の看板の前で。



 




コメントをどうぞ!

腕の痛みがとれてよかったですね。おかげで、五縁玉の続きで真美さんの晴姿も見ることができたし。(たしかに、普段と違って別人のようです。)
ところで、三島由紀夫の「班女」はハンジョです。あの素敵な宇佐市民図書館にもちゃんとありますよ。「近代能楽集」のなかに入っています。それにしてもフランス人の健ちゃんが、この話を知っていて、とっさに扇を差し出したというのだから、ただものではないですね。
また暖かくなったら鹿児島にも来てください。

投稿者種村:2008年02月07日 15:34